簡単な紹介
「最近の日常的不可思議」とは、Plastic Tekkamaki製作のPCノベルゲームだ。
本作はフリーかつウェブ上でもプレイできることからお手軽に始めることができる。
また、ボリュームもそこそこで、テキストを読むのがそこまで速いわけではない自分でも所要時間は6時間くらいだった。
では、本作の内容について簡単に。
本作の主人公「楓井瑛」はフリーライターで食レポから都市伝説まで様々なジャンルの仕事をもらっては記事を書いて暮らしている。そんな彼女はあるとき取材のため訪れた喫茶店「はちドル」にて高校生男女「式色ミズミ」「赤々実理素」に話しかけられる。
理素は自分たちはこの月曜日をループしているといい、自分たちのことを取材してほしいと瑛に頼むのだった。
話半分に聞いていた瑛だったが、翌日(?)から瑛自身もそのループに巻き込まれてしまうのだった。
感想
plastic tekkamakiの作品は初めてプレイしたが、雰囲気がかなり新鮮だった。
新鮮というと何か派手なものを想像しがちだが、これはむしろその逆で、作品独特の大げさな表現や展開が抑えられていている。かといって現実に忠実というわけでもないのでなんと表現したらよいか悩ましいところだが、例えるなら現実が水で一般的な作品がジュースならこの作品は桃の天然水くらい。
3人の会話で物語が進行していくが、たわいもない会話が多く、まったりと読み進めることができる。話題の切れ目がとても自然で、ここは現実の会話に近いものを感じた。
また、最初はループと聞いて「SFか?」と思ったが、そこはあまり深堀はされなかった。これはむしろ本作の良い点だと思う。
おそらく本作で書きたいことは「ゆるやかな世界観」「大人と子供のとりとめもない会話」「大人と子供の物の見方の違い」「ループによって記憶や思考がバグっていく過程」あたりなのではないかと思う。
ループの原理や理由などについて深堀していくことはこれらと相反してしまう。
深堀するということはループについて調べたり相談するシーンを大幅に増やす必要があり、これは「ゆるやかな世界観」「大人と子供のとりとめもない会話」と両立が難しい。
また、正確な情報をもとに推理を重ねる過程が必要となり、これは「ループによって記憶や思考がバグっていく過程」と同時に表現できない。
そのため、本作におけるループはあくまでもこの3人が会話を続けるための舞台装置にすぎない。しかし、本当に何も問題のない日常で雑談し続ける作品っていうのも面白くするのは難しそうなので、物語に指標を与える意味でもループという状況はよかったと思う。
「ゆるやかな世界観」はとりとめもない会話の積み重ねから構成されているが、これはほかの作品でも同様なのだろうか。いずれプレイして確かめてみたい。
キャラごとのものの見方は年齢や性別などに起因しているが、個人的には楓井が新鮮かつ心地よかった。
基本的には赤々実と同じ視点で話しているが、しっかりと自分が大人である自覚をもっていて子供たちを何とかしてあげたいと思っている。だけれど、「守らなきゃ!」みたいな暑苦しい感じではなく、自分のやりたいようにしながら2人のことも考えて全体のバランスをとっている気がする。結局これが一番みんなにとっていいことなんだよな。
自己犠牲や努力が美しいものという風潮は強いが、実際は自分も含めた全員の幸福とコストを考えるのがいいように思う。まあ、楓井はそれがいいと思っているからそうしているのではなくもともとそういう性格なだけだと思うけど。
最後に
ゆったりとプレイできたので、寝る前に少しずつ進められたのがよかった。
(キャラたちと一緒に眠気と戦いながらプレイすることになってしまったけど)
あまり経験したことのない独特な雰囲気な作品で、スルッと入ってくるような感じだった。また別の作品もプレイしてみたい。